「イニシェリン島の精霊」感想

実はバビロンよりも先に見ていた。

今年のアカデミー賞に9部門ノミネート!すごい!ってなるのに全然話題になってない感のある本作。感想を書き殴っていきたい。

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本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。(公式HPより引用)

 

  • コルムの視点 芸術家の狂気と傲慢

コルムの主張はこうである。

「人生で最後の曲を作りたい!最後だから集中して作りたいんや!だからつまらん人間と関わってる暇なんてないんだよ!」

最後となる作曲のために全てのものとの交流を断ち、素晴らしい楽曲を作りたいという主張である。これはこれで正しい主張なんだが、そのために自分の指を切り、しつこく自分に付きまとうパードリックを追い払うまでやるのが狂気じみている。また、今作では芸術家の傲慢な部分も見える。その象徴的なシーンが「モーツァルトのような作品は後世に残る。お前のような優しさは後世には残らん」とバーでパートリックに言い放つところ。こうした「自分は他のヤツらとは違うんだよ」という傲慢さと「いかなる障害を排除するために指を切り落とす!」という狂気をしっかりと感じさせるキャラクターとなっている。

  • パードリックの視点 彼は本当に退屈な男なのか

 

精神科医斎藤環先生のツイートにもあるように彼が退屈な男なのか?という話は今作の大きなポイントである。彼は自分の仕事である動物使いをやり、仕事終わりにビールを飲む。こうした生活を淡々と続けている男である。これは音楽家の仕事よりも価値が低いものなのか?というのは我々勤め人に深く刺さってくる。

確かに芸術家のように後世には残らないが、そういう仕事があるから世界は回っていくという部分は深く考えるべき部分ではないだろうか。こうしたことから筆者はパードリックの方に肩入れしてしまった。彼は教養もなく酒が入るとすぐキレるやべー男なのだが、そうした小市民を無視し続けた結果がああなるのだ。

  • 最低の結末に感じること

お互い大切なものを失い、海岸で投げやりに気持ちを語るラストは苦々しくも爽やかな後味が感じられた。この結末がどうなるかわからないが、そこにはギスギスしたものはないのかもしれない。

  • 細かいところ

・パードリックの眉毛。ずーっと斜め45°をキープしてるかのような感じがジワジワくる

・傍若無人なクソ警官やバーのオーナーなどの田舎あるある住民が解像度高くていい。

・パードリックの支えとなる警官の息子がその場のノリで生きている若い子っぽくてよかった。パードリックの妹に惚れるところもまたいい。

・パードリックの妹が本土に行き、自由を謳歌して「お兄ちゃんもこっち来なよ!楽しいよ!」って手紙を出す場面。田舎から上京した多くの若い人に強烈なパンチを浴びせてくる名シーンだと思う。

・なんとなくだけど、他所からみた今のハリウッドってこんな感じなんだなーとは思ってしまった。