「オッペンハイマー」感想 

  • はじめに

IMAXさん久しぶりです

 

eigaz.net

2024年のアカデミー賞で7部門を受賞。歴史上の人物を扱った伝記映画作品の興行収入でトップなど数多くの金字塔を打ち立てた。それがオッペンハイマーである。

原爆の父と呼ばれ人物であり、日本公開には紆余曲折あった。が、ついに日本でも公開された。

 

  • この映画を日本で見る意味

アカデミー作品賞にふさわしい傑作である。筆者はそう感じた。

まず、日本の描写について。

作中には原爆を落とす直接的なシーンはない。あのキノコ雲も出てこない。しかし、あのように何事もなくあの被害を流されてしまうことが恐怖である。あの当時のアメリカの空気感とオッペンハイマー自身の演説における描写(聴衆が焼けていき、灰になった人を踏みつける)など、配慮をしつつも真摯に日本に向き合っているように感じた。

だからこそアカデミー賞後の会見で山崎貴監督がこう言ったのだと思う。

news.yahoo.co.jp

 

むしろこの映画のキモはオッペンハイマーのカルマ、すなわち原爆という強大な剣を作った結果である。オッペンハイマーは戦争を終結させるために原爆を作った。しかし、今度はその核を巡って政治的な争いに巻き込まれてしまう。そうした中でオッペンハイマーという人物を多重的な側面で見ていく。重厚な話だった。

 

作中においてよく登場するプロメテウスのお話。これは実際のオッペンハイマーの伝記にも出てくるらしい。その帰結としてのラストがすごくよかった。

原爆の開発中に核分裂によって大気中に火がついて世界が滅ぶ可能性が示唆される、しかし、再度の計算によってその可能性は「ほぼゼロ」となる。実際の実験により原爆は完成する。戦後オッペンハイマーアインシュタインに打ち明ける。「私は世界を壊してしまった」と…

計算の帰結として大気に引火することがないと悟って称賛したアインシュタインと自らの行動が人類の新しい争い(=核戦争や抑止力を巡る骨肉の政治的争い)を作ってしまったと嘆くオッペンハイマー。息を呑むラストだったと言える。

最近になってオッペンハイマーのアクセス権剥奪がストロースの私怨による冤罪とされたのはせめてもの救いだったのではないかと思う。

 

  • 細かいところ

・「難解」「東大2次試験ばりの読解力が必要」などと揶揄されがちなノーラン作品において比較的タイムラインがわかりやすいと思う。むしろ登場人物が多すぎるのでそこの整理が大変。予習はオッペンハイマーWikipediaを読むくらいでも十分だと思います。細かいところまで追うとしんどくなる

アインシュタインが出てきた時は流石にびっくりしたが、あの人は戦時中の人だったよなと思うと納得ではある。

・出ていたシーンの半分くらい服を着てないフローレンス・ピュー。公聴会でどっかのAVみたいにオッペンハイマーとやるシーンは流石に気まずくなった

フロイトユングと聞き「あ。1920年代や。まだ行動理論は一般化してないんやね」と悟るワシ

・最初の若かりし日のオッペンハイマーの小宇宙がぐるぐるしたりビックバンしたりするシーンはすごく共感できた。大なり小なり院生はそういうのを持ってるからね…

・ストロースの野心を砕いたのがケネディというのは熱い

 

  • さいごに

3時間の濃密かつ重厚な人間ドラマを見れて満足です。この映画が今のこの時期に公開された幸運に感謝