こんなにニコニコして自伝作品を撮影できるのスピルバーグだけだよ
-
はじめに
筆者がこの映画について知るきっかけになったのは「 THE FIRST SLAM DUNK」の幕間の時間である。
「スピルバーグの自伝的映画」というワードを聞いて駄作でも傑作でもいいから見てみたいと思う。これこそ巨匠の成せる技だと思う。期待感マシマシで見に行ったら
これがもう素晴らしい作品でして。
-
父と母とスピルバーグ
この作品を作った経緯が父の死とコロナ禍と語るスピルバーグ監督。特に父の死によって受けた衝撃は大きかったらしい。
76歳のスピルバーグが、一昨年に父を亡くすまでは孤児になるのがどういう気持ちなのか、どれほど深く傷つき、深遠な、海の底まで届きそうな思いになるのかわかっていなかったといっているのが新鮮といっていいかどうかわからないが新鮮で、70代後半ならほとんどの人が「孤児」だ。
— こりま (@korimakorima) 2023年1月25日
この作品では自身の幼少期〜大学中退までをベースに脚色された物語を描いているが、父親を悪者にするでもなく、母親を悪くいうのでもない。あくまでも自分の人生は父親や母親から受けたものである。
一見すると映画に関係ない父親の理屈っぽい喋りも映画に活かされているし、母親の芸術家としてのセンスも活かされてる。スピルバーグからの父と母に向けた手紙のような作品である。
・映画への純粋な愛と秘密
若くして自主制作作品を作りながらもそこに確固たるこだわりが透けて見えるのもいい。みんなアンタの映画を見て育ってきたからこそのこだわりも伺えてよかった。作品の中にもE.T.やプライベート・ライアンなど定期的に差し込まれる過去の名作を想起させる演出で泣きそうになる。自身の全てが映画なのだ。また、自主制作映画を編集するサミーが若い頃のスピルバーグを想起させていて非常によかった。ボソッと「嘘っぽい」って言うシーンは必見である。
だいぶ脚色した部分は多いにせよ、油断すると重苦しくなりがちな話を明るめに作ってる。ニコニコしながら撮影していたオフショットの空気のまんま作られてるのすごいと思う
この物語において欠かせないのが親戚の母方叔父だ。スピルバーグ自身も大いに影響を受けたと語るおじさんが来て芸術家と孤独の話をする。彼は言う。「芸術家は芸術と家族との間で板挟みになる」と。そしてサミーは母親の不倫を映画で知ってしまうのだ。物語終盤の大きなテーマとなる「映画と真実」につながる。映画を撮ることは時に不都合な真実を写してしまうし、嘘を真実にすることができる。その苦悩と向き合い続けるティーンエイジャーの心のゆらぎがちゃんと焼き付いていて興味深かった。これを踏まえてあの名作がたくさん出てくるのすごいっすね…
-
その他あれこれ
・「ポリコレはポリコレ。事実は事実。その切り分けは大切やで?」と作品でハリウッドに訴えるスピルバーグさんさすが。聞いてますか?ディズニーさん?デミアン・チャゼルさん?
・「スピルバーグの映画に出れる!やった!」→「スピルバーグをモデルにした役???俺が???」想像しただけでゲロ吐きそうな役をまっとうしたガブリエル・ラベルさん大成功してほしい
・アリゾナ最高!カルフォルニアはクソ!
・カルフォルニアでいじめを受けた体験が数多くの作品に偏屈な感じで出てると思うと笑うんよ。
・出だしがどう見てもビフっぽいのに卒業記念作品でめちゃくちゃイケメンに撮ってもらったアイツ、ツンデレが過ぎる
・スピルバーグ、パニック障害もあったんか…
・ラスト間近の偉大な映画監督に会える!→観客「えっご本人出てくるの?」→女の事務員さんでしたーで会場は笑いに包まれてました。
・ラストシーンでデビット・リンチをサプライズでお出しするな!エンドロール見てビビったやんけ!
・最後に
アカデミー賞はどうかなー作品賞エブエブ、監督賞フェイブルマンズで無難に着地しそうな気がするけどなー
って思ったら一個も掠りもしなかったよ