「正欲」感想 薄っぺらい多様性の枠を笑う死んだ魚の目をした人達の物語

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期待せずに見てたらすげー面白かった作品の中に入ると思う

  • はじめに

朝井リョウ原作の小説を稲垣吾郎新垣結衣で実写化!主題歌はvaundy!

これだけなら死亡フラグ満載の近年の邦画らしい話に見えてくる。しかし、実際に観てみるとまぁ面白かった。すごく考えることが多かったし、何かと物憂げになる秋に観る映画としてオススメしたくなった。

  • 薄っぺらい多様性を笑え

物語のテーマは多様性。多様性が叫ばれる昨今において、多様性の枠は誰が決めてるの?という根源を問われてる。

上図のように従来の伝統的価値観を広げていこう!というお題目で始まったLGBTQなどの運動だが、それはそれを主張する人達の枠によって決められてるんじゃない?というのがこの映画や原作で問われてるテーマである。つまり、上図の青いゾーンに入らない人もいるけどその人達をどう理解するかというのが問われてる。

それを示すために使われたのが水フェチという極端な癖の人達であり、この人達をどうしていくかというのがひとつの見どころである。こうした枠から外れた人達の中にはおぞましい犯罪をする人もいれば、普通に癖を隠して生きてる人もいる。その人達を多様性として理解するのは必要。しかし、それはとても難しいのではないか?というのが大きなテーマである。母数は少ないけど、現にこうした多様性を言い訳にした犯罪も起きてきてる。

この映画におけるLGBTQ運動はとにかく全体的に薄っぺらい。特に大学の学園祭の会議をするシーンがそれを象徴している。「多様性かっこいいよねー」という学園祭実行委員の女性とサークルのリーダーの女子大生。それを隣に座ってる諸橋(佐藤寛太)が冷めた目で見てる。

「そういう薄っぺらい多様性で俺を理解した気になるなよ」という強いメッセージがあるシーンでしたね

昨今の薄っぺらい多様性に強いカウンターをぶつけていた印象が強く残っているいい話でした。

  • 死んだ魚の目をした登場人物達

登場人物の多くが目に光がない。死んだ魚の目をしている。それは一見するとすごく幸せそうに見える検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)も例外じゃない。彼も多くの枠=法律から外れた人を見てきて彼らをどうするかという日々の中で心を無にしてやってきた結果、無のような目をした人になってしまった。そう取れるように筆者は感じた。

淡々とひたすらに死んだ魚の目をした人達が社会で生きるのに強く共感した。作中のセリフで「社会に馴染むために擬態して生きている」というのがあるけど心の中で首がもげるほど頷きましたね。

  • 細かいところ

・夏月(新垣結衣)に雑に絡む主婦のリアリティの高さ

・佐々木(磯村勇斗)が来るに過剰反応した後に「いつの間にかお前らできてんの?」というデリカシーのないLINEでゲラゲラ笑った

・ガッキーがあんなことやこんなことをするのでガッキーファンも見てほしい

朝井リョウさん作品のメンヘラの解像度の高さなんなんだ

・水の描写がいい動画に必ず子供とかがいるの人の心がなさすぎていい

磯村勇斗さんにそろそろ幸せな若い人の役をあげてください

・パンフの稲垣吾郎さんのプロフィールに闇を詰め込むんじゃないよ!

  • さいごに

薄っぺらい多様性、意識だけ高くなる人達、死んだ魚の目をして擬態する俺たちと時代のうねりを的確に詰め込んだ作品になっていてすごくよかったです。

最後に一言。

「見る前の自分には戻れない」というキャッチコピーは言い過ぎじゃないっすかね?

  • おまけ

作中にひきこもりの少年のお話が出てくるのでちょこっとだけおまけを。

彼らが動画を作ったりすることは否定はしない。しかし、この家庭の状況を見るにお父さんがこの活動に同意してないのであればお父さんに動画作ってますということは意図的に伏せてやるべきだと思う。例えばお父さんが帰ってくる時間から逆算して片付けの時間などを作っておくべき。それと並行してお父さんと話す時間を作るのも必要だと思いました。